「日本の歳時記」小学館より
このメモは小学館、週発刊の「日本の歳時記」という雑誌の中から、俳句について基礎的要素を25回にわたって俳人山田弘子氏が解説された内容をメモしたものです
本文に入る前に今日は重陽の節句❣❢ そこで俳句関連の記事に寄せて駄句を一句
今年七十五後の雛をばかざりけり 駄句(=^・^=)
では本題です❣❢
★俳句を楽しむ14 山田弘子
【俳句の調べ】
○舌頭に千転せよ
韻律の整った詩とは口調にのせてそのリズム感が心地よさをともなうこと
芭蕉:句調はずんば舌頭に千転せよ⇒去来抄(向井去来)
○やさしい言葉の印象
- まさをなる空よりしだれざくらかな 富安風生
- とどまればあたりにふゆる蜻蛉かな 中村汀女
※平仮名表記の視覚的印象の効果
○リフレインとオノマトペの効果
リフレイン:繰り返し⇒リズミカルな調べ
- 避暑の娘に馬よボートよピンポンよ 稲畑汀子
- さみだれのあまだればかり浮御堂 阿波野青畝
- しぐるるや駅に西口東口 安住敦
- 東山回して鉾を回しけり 後藤比奈夫
オノマトペ:擬音・擬態語⇒視覚聴覚を刺激
- チチポポと鼓打たうよ花月夜 松本たかし
- ささささと火を掃く箒お水取 山田弘子
- 破調の効果
- 父がつけしわが名立子や月を仰ぐ 星野立子
- 犬ふぐりどこにも咲くさみしいから 高田風人子
★俳句を楽しむ15 山田弘子
【俳句と風土】
俳句は自然の季節の変化の中で育まれてきた文藝
○季題・季語への戸惑い
歳時記に分類されている季題・季語と現実のギャップ⇒ずれの解消
○土地に息づく暮らし
- 三月の島のをのこの甲羅干し 山田弘子
その土地の自然に目を向け土地の暮らしをその土地の心を詠むこと⇒俳句は其々の土地の風土と自然こそ大切にして詠む
- 遠き家の氷柱落ちたる光かな 高浜年尾(北海道
- 指さして消ぬべくありぬ蜃気楼 山崎ひさを(富山
- 金魚田に色浮きたちて雨兆す 村田脩(奈良
- 御柱はうごかぬ世々のしるしかな 有信(長野
- 飴伸ばす如くにハブをしごきける 篠原鳳作(沖縄
其々の土地の風土いわば魂と一体となって詠まれた句
※歳時記の季題・季語その解説をしっかり熟読しそれらの本意本情を把握しておくことは勿論大切その上で其々と土地・吟行先の風土を知って向き合う
★俳句を楽しむ16 山田弘子
【実践・応用編】⇒伝えたいことを絞る
○まず戸外に出よう
手帖(句帖)・筆記用具・歳時記を用意
まずは戸外に出て自然と触れ合う
○焦点を絞り込む
注:見た儘を詠むということを鵜呑みにしてあれもこれも入れて単なる報告に終わってしまう⇒どこに焦点を絞るかが大事:眼前の景の中から一つに絞って素直に表現する練習
例)夏の日の句吟外出にて
夏日・夏帽子・ハンカチ・汗・蝉・夏草・夏の蝶・緑陰・涼し・夏雲等々
- 夏蝶の黄が沈んでは浮かんでは
- 蝉しぐれ浴びてひと息入れにけり
- 緑陰のベンチの少し傾ぎゐる
- 夕立を呼ぶ風らしや木々さわぐ
最初は目の前のことを5・7・5の形にしてみる
○欲張らないこと
あれもこれも17音におしこめると窮屈で余韻の無い句になってしまう⇒焦点がぼける
添削前
- 仄あかき椿の蕾春を待つ
※下5春を待つで季題が2つになり散漫
添削後
- 紅仄とのぞく椿の蕾かな
※椿そのものに焦点が絞られている
★俳句を楽しむ17 山田弘子
【実践・応用編2】⇒平明な表現余韻
○原点に戻る
陥り易い弊害-少し難しいそうな言葉を使いたくなる
失敗例)
- 年立つと船全燈を奢りたる
添削例)
- 船の灯のあかあかと年移りけり
山田弘子
芭蕉の言葉「三冊子」収録語⇒初心を忘れるな
- 桐一葉日当たりながら落ちにけり 高浜虚子
- あはれ子の夜寒の床の引けば寄る 中村汀女
- 街の雨鶯餅がもう出たか 富安風生
俳句は難しい言葉を用いたり回りくどい表現をする必要はない
平明と云う事は平凡とは違う実は平明で余韻のある句が最も難しい
平明な句は日本語の持つ柔らかさ深さを大切にした句
★俳句を楽しむ18 山田弘子
【実践・応用編3】⇒具象幷抽象の句
具体的な容・景をそっくり詠む⇒具象
本質を捉える観念的表現の句⇒抽象
○具象の句
- ままごとの飯もおさいも土筆かな 星野立子
- 水仙の花のうしろの蕾かな 星野立子
対象を確実に把握した伸びやかな個性句
具象は何処に焦点を当てるかで完成度が違ってくる
- 口開けて閉めて遠目の寒鴉
- 十五分毎鳴る時計春暖炉
星野立子
写生を重ねるうちに何処をどう切り取るか自ずと会得できるようなる
○抽象の句
- 春光を剪りとっていく庭師かな 藤野佳津子
春光を切り取る⇒抽象的表現がより具象的な景を想像させる
○抽象と具象を結ぶ
抽象的季語を活かす為には出来るだけ具体的なものを取り合わせる
抽象的季語⇒寒さ・暑さ・春愁・暮春・立夏等々
門々の下駄の泥より春立ちぬ
一茶
- 下駄の泥という具象が立春の季節感を引き立たせる
- 秋風やみなぬれひかる鹿の鼻 原石鼎
- ぬれた鹿の鼻⇒映像的に描くことで秋風の肌感覚が伝ってくる
★俳句を楽しむ19 山田弘子(8/26)
【実践・応用編4】⇒心を物に託す
○季題に込める情感
描く対象に作者の思いや様々な情感を託ス
俳句は自然を詠いまた自然を通して生活を詠い人生を詠いまた自然に依って志を詠う文藝・・
俳句はそう突き詰めた切羽詰まったことを詠おうとしても詠えないそれは季題があるから⇒高浜虚子「俳句への道」
※切羽詰まったこととは結局詠う事ではなく述べることになる
詠うのが詩でありノベルのメッセージである
※季題があるとは喜怒哀楽の情感は季題を描くことによって滲み出てくるもの
○季題が生きている
季題・季語は長い歴史の中で其々の概念とイメージを育てて来た
- 朝ざくら家族の数の卵割り 片山由美子
- 家郷の夕餉始まりをらむ夕櫻 大串章
※朝ざくらの句=家族の表情平和無事を祈る緊張感が伝わる
夕櫻の句=望郷の思いが伝わる
作者の主観はストレートには表現されていないが季題の働きの確かさによりそこはかとなく心が伝わり余韻が広がる
○主観・客観は表裏一体
- 電線のからみし足や震災忌 京極杞陽
T12(1923)9/1関東大震災を詠んだ句
電線にからみし足⇒リアルな客観写生の裏に作者の裏に拭ってもぬぐえぬ慟哭がある 客観写生を究めた奥に大いなる主情有
★俳句を楽しむ20 山田弘子(9/2)
【実践・応用編5】⇒口語俳句
○詠むと書く
俳句が詠うものであるとするなら口ずさむに相応しい言語表現が必要か
○口語俳句と口承性
嫁さんになれよだなんてカンチューハイ
二本で言ってしまっていいの
俵万智-サラダ記念日
日常に話している生の言葉自らの目線で表現する試み⇒ストレートな表現ができる
- 春は曙そろそろ帰ってくれないか 櫂未知子
- 着膨れてなんだかめんどりの気分 正木ゆう子
俳句は口承性の文藝⇒坪内稔典
✔ たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ 坪内稔典
○言葉の弾力を身につける
口語と文語何れもその特性を確りと学ぶ
詩に対する自らの言葉に弾力を」つけていくことが大切⇒柔らかな精神
口語俳句では対象となる素材が何であるかが大いに係ってくる
- パンジーのあなたの好きな色はどれ 山田弘子
日常会話が其の儘句となる
★俳句を楽しむ21 山田弘子(9/9)
【実践・応用編6】⇒吟行
○多様化した吟行
※題詠:机に向かい過去の経験等を手繰りながら創る
※吟行:戸外へ出て自然の風物季節感に触れて創る
①近辺を散策 ②名所旧跡・行事を訪ねる ③宿泊旅行遠距離の旅吟
- 白牡丹大きく咲きて風もなし 室積波那女①
- 露草や飯噴くまでの門歩き 杉田久女①
○吟行の際の心遣い
準備:①場合⇒筆記用具・季寄せ
②場合⇒参考資料事前チェック
③場合⇒気候風土チェック・歴史風土等
予備知識が豊富で在る方が句に奥行き幅がでてくる
マナー:迷惑をかけない行動
- ねむりても旅の花火の胸にひらく 大野林火
★俳句を楽しむ22 山田弘子(9/16)
【実践・応用編7】⇒旅に出る
○旅の持つ力
旅で生まれた作品には実に活き活きとした臨場感が漲る
漂泊の旅⇒西行・宗因・芭蕉等々
スランプ脱出に有効な手段
「月日は百代の過客にして行かふ年も又旅人也 舟の上に生涯をうかべ馬の口とらへて老いをむかふるものも日々旅にして旅を栖とす⇒芭蕉・奥のほそ道冒頭
○仲間と旅ひとりで旅
- 除夜の鐘僧の反り身を月光に 山田弘子-高野山僧房にて
○排枕
排枕⇒俳句に詠む名所旧跡-自分のオリジナル排枕を持つ:その地を繰り返し訪ねる
- 花の谷湧くが如くに落花かな 稲岡長ヒサシ
- 櫻もう来年が始まってゐる 稲畑廣太郎
- 下千本には花人のもう来ない 黒川悦子
吉野山一泊吟行旅にて
原句
- ほうたるの弧や線描き舞ひ遊ぶ
添削後
- ほうたるの描きやまざる光の弧
★俳句を楽しむ24 山田弘子(9/30)
【実践・応用編9】⇒推敲と添削2
○一瞬の感動を捉える
原句
- 今日こそは確と聞きゐしほととぎす
- 聞きゐしの表現では心の弾みが伝わらない(今日こそは⇒時間的誤差有)
添削例
- 今しかと声聞きとめし時鳥
原句
- もちこたふバラのとつさに総くづれ
- 言葉遣い(選び)が安易
添削例
- 耐へてゐし薔薇一瞬にくづほれし
- 壺の薔薇のよよと崩れし夜の卓
○時間の経過と命の動き
原句
- 水入り外出の間に田植済む
- 水入り」外出の間」という説明を省き景の変化を
添削例
- 帰路はもう田植終へたる景ばかり
原句
- 堰の水しぶき楽しと寄る蛍
- 楽しの語は蛍の幻想性に不釣り合い
添削例
- 縺れつつ蛍火増えて来る堰
★俳句を楽しむ23 山田弘子(9/23)
【実践・応用編8】⇒推敲と添削1
○推敲と云う事⇒必ず見直しの習慣
注意点
- 5・7・5定型か リズム感はどうか
- 切字が重なっていないか
- 季題がぴったりはまっているか
- 文法的に間違いはないか
- 冗漫になっていないか⇒省略
- 充分表現しているか
- 仮名遣い・文字の誤字はないか
○原句を活かす添削
添削指導⇒ことばの順序を変える・てにをはを一字変える:句が生きてくる
- 堰音の呼びし蛍の乱舞かな
※自らの句から一旦距離を置きそのうえで推敲してみる
★俳句を楽しむ25 山田弘子(10/7)
【実践・応用編10】⇒一句一章と二句一章
○一句一章の句
先師曰く発句は頭よりすらすらといひ下し来たるを上品とす
発句は汝が如く二つ三つ取集めたるものに非ず黄金を打ち延べたる如くなるべし
去来抄
⇒一物仕立て:17音で対象を一点に絞る
- 流れゆく大根の葉の早さかな 高浜虚子
- 虹の環を以て地上のものかこむ 山口誓子
- たらちねの蚊帳の吊手の低きまま 中村汀女
- 浮いているだけで大きな金魚かな 宇多喜代子
- 一枚の音を加へし朴落葉 鷹羽狩行
○二句一章の句
発句は物を合すれば出来せり其の能く取合するを上手といひ悪しきを下手といふ
去来抄
⇒一句の中に別々のものを取り合わせる
- 古池や蛙飛びもむ水のおと 松尾芭蕉
- 朝顔や濁り初めたる市の空 杉田久女
- 病葉や鋼のごとく光る海 飴山實
- 吊忍母ある限り足袋干され 鈴木英子
※いずれも5音12音で描かれたふたつの対象が見事に共鳴し豊かな詩情を醸す