「日本の歳時記」小学館より
このメモは小学館、週発刊の「日本の歳時記」という雑誌の中から、俳句について基礎的要素を25回にわたって俳人山田弘子氏が解説された内容をメモしたものです。
★俳句を楽しむ1 山田弘子
【俳句に出会う】
○自然の命と豊かな日本語
- 雪の朝二の字二の字の下駄のあと 捨女
- 雀の子そこのけそこのけ御馬が通る 一茶
名句ではあるが現代感覚からは、づれている→現代俳句は自分の言葉で自分の見たまま感じたままを綴る
俳句は自然の命を賛美し日本語の豊かさ深さを学ぶ文藝
○俳句は17音からなる定型詩
最初の5音上五 次の7音中七 後の5音を下五又は座五ザゴとよぶ
○季節を表す言葉を入れる
基本は17音の中に季題(季語)を入る。季題とは長い歴史の中で醸成された日本の文化そのもの。
- 折とりてはらりとおもきすすきかな 飯田蛇笏(秋)
- 滝の上に水現れて落にけり 後藤夜半(夏)
- 羽子板の重きが嬉し突かで立つ 長谷川かな女(新年)
○切字を用いる文藝
「や・かな・けり」等の切字を使う文藝
一句に余韻を産み強調する効果働き有、用いる場合は一句にひとつが基本
- 菜の花や月は東に日は西に 蕪村(切字有り)
- 詩の如くちらりと人の炉辺に泣く 京極紀陽(切字無し)
-歳時記1(4/8号)
★俳句を楽しむ2 山田弘子
【俳句は挨拶】-自然と人事
○俳句における挨拶の心
俳句の対象
自然-山川草木自然現象
人事-人間に関わる事象
挨拶⇒気候の変化・自然の風物への挨拶も含まれる=存問
高浜虚子「虚子俳話」存問の項一節
お寒うございます・お暑うございます⇒日常の存問が即ち俳句
峻嶺を望み大沢を渡る⇒茲にも亦俳句
目見る処耳聞く処⇒俳句がある
心感ずる処神通ずる処⇒そこに俳句がある
○身辺の出来事に向き合う中で
高浜虚子
S20年長野小諸疎開中 長男年尾が俳人田畑比古を伴い訪ねて来た時の一句
稲畑汀子(S33)
稲畑汀子(S48)
子供に対する母親の存問の心から生まれた句⇒俳句は日常の生活の中で見つけることが出来る 身辺の事象を大事に向き合うことが大切
-歳時記2(4/15号)
★俳句を楽しむ3 山田弘子
【歳時記の読み方・使い方】
○歳時記とは
俳句を作るうえで用いる季題-季語及びそれに関する例句を季節別・月別に分類して集めたもの
現在の歳時記は新暦と旧暦が交差して記述されている
○季題-季語は生き物
一般的に季題-季語は季節別・月別に分けられ更にその中で時候・天文・地理・生活・行事・動物・植物の各分野に纏められる
見出しと為る季題には類似の季題である傍題が添えられ解説例句が示される
現代は季題の時期の基準は東京となっているので地方に於いて多少の時期的ずれが生じることを理解したうえで自らが実感する季節風物を素直に詠めばよい
季題季語の解説で歴史的背景や行事がどのように定着したか等知ることが出来るので季題-季語の本意本情を把握することが出来る
季題-季語は日本の文化其の物とも云える
-歳時記3(4/22号)
★俳句を楽しむ4 山田弘子
【季題季語の活かし方】
○季題と季語
原点は室町時代連歌連句⇒発句美季節の題を織り込む
季題:公認された美の題目
季語:その美が公認されていない季節の様々な言葉の採取されたもの
(山本健吉定義)
現代は明確には使い分けされていないが日本の誇るべき文化遺産である
○季題季語は俳句のいのち
季節感だけではなく様々な連想を誘い作品に広がりと安定感を齎す
高浜虚子-花鳥諷詠⇒総ての事象を季題季語に託して詠む
枯野其のものが描かれている主観をくぐり出た客観写生の句
人の営みとともに据えることで初桜の季題の本意が発揮されている
季題季語が一句の中でどのように働いているかが大切・事柄が先行して季題季語が添え物なってしまってはならない
季語に択して作者の気持ちがにじみ出るような作品
-歳時記4(4/29)
★俳句を楽しむ5 山田弘子
【文語・口語の表現】
○文語の句・口語の句
五七五の定型には文語体の表現が便利 口語の句は定型を崩しやすい
鉄鉢の中へも霰 種田山頭火
咳をしても一人 尾崎放哉
文語体は俳句に格調を齎す
○口語短歌の影響
- この味がいいねと君が言ったから 7月6日はサラダ記念日
- 俵万智サラダ記念日
自由な世界は口語ならではのもの
まずは文語の基本的な働きを知り駆使できる力と鑑賞能力を備えることが先決
-歳時記5(5/13)
★俳句を楽しむ6 山田弘子
【表現-切字について】
代表的切字「や」「かな」「けり」
「や」
1.上五につく
直観的感慨を掴み一句に空間を作り中七下五の具象化された表現へとつなぐ
2.中七につく
下五之イメージヲを浮かび上がらせる効果
3.下五につく
二人称の相手に語り掛ける叙法‐存問
「かな」
朝顔の紺の彼方の月日かな 石田波郷
詠嘆の切字:説明を省略詠み手に想像させる力⇒耶・かなは強い切字の働きあり一句に両方は使わない
「けり」
芥子咲けばまぬがれ難く病みにけり 松本たかし
断定を表す切字:強い響きとキレ・大きな余韻を広げる効果
-歳時記6(5/20)
★俳句を楽しむ7 山田弘子
【表現-切れる句・切れない句】
○切字のない句の切れ
言葉・素材・表現を如何に省略するか⇒切字は句の広がりを出す効果また統一
性を齎す
○切字を用いずに切れのある句
細見綾子
星野立子
飯田龍太
切字無しの句で其々に鮮やか切れ味あり
下五が体言(名詞・代名詞)で終わっており切字に変わって働いている
異常は何れも二段切れの句
草間時彦
三段切れの句⇒時間経過の表現に適す熟練が必要
○切れの見えない句
稲畑汀子
加藤三七子
17音全体が一本の棒のように詠まれている⇒切れの目立たない句はリズムに緩急をつける言葉の流れが大切
★俳句を楽しむ8 山田弘子
【表現-比喩】
レトリック(修辞)の用い方
○意外性が大事-直喩AはBのようだ
別名:ごとし俳句
松本たかし
中村草田男
松本句⇒水仙を象形と捉え古代の鏡を連想させた
中村句⇒葡萄食すが象形一語一語が言葉を噛締めるという連想
象形と連想の語が類似し過ぎは詩的飛躍に乏しくなる
蛍火や山のやうなる百姓家 富安風生
○直接的-隠喩 例えを用いない比喩
暗喩とも 単刀直入に述べる技法
飛躍し過ぎて人に伝わらない比喩にならないよう注意
○活喩-ものに命を与える表現
人間以外のもの意志を持たないものを
恰も意志の在る如く喩える擬人法
常套的に用いると陳腐になる危険有
★俳句を楽しむ9 山田弘子
【助動詞のはたらき】
文語文法の基本をしっかり理解しておく
○助動詞の働き
品詞-単語には名詞・動詞・形容詞など一語で意味を持つものと付属語-助動詞・助詞・接続詞などそれ自体には意味を持たない
助動詞は名詞・形容詞・動詞の末尾について活用しいろんな意味を導く
例)花を摘まず⇒否定・摘みたり⇒完了
摘まむ⇒摘もうという意志を表す
「し」「たり」「き」「けり」⇒過去の事実のほか現在における認識も顕わす
「つ」「ぬ」「たり」⇒連動作の完了を顕
「む(ん)」⇒一人称・意志/二人称・勧誘
三人称・推量を顕す
「ず」「まじ」「じ」⇒打消しの意
「かり」⇒動詞につく「けり」と形容詞につく「かり」が混同されがち
行にけり○(行く⇒動詞)
涼しけり✖(涼し⇒形容詞):涼しかり
★俳句を楽しむ10 山田弘子
【助動詞の力】てにをはの工夫
助詞を的確に使いこなす事は作句のポイント
○省略できる助詞⇒主語が用言へとつながる場合
○目的語を導く助詞の省略
一字たりと疎かにせず最も的確な言葉で的確な省略をし空間を広げる推敲をする
○「の」と「は」の働き
俳句では主語の次の助詞が「が」に代わって「の」が用いられることが多い
「を」ではなく「は」の使用によって親の情感がより強く伝わる
★俳句を楽しむ11 山田弘子
【省略は武器】
「言葉の省略」「景の省略」「思いの省略」
○言葉の省略
切字は言葉の省略の際たるもの
「や」の切字の効果⇒広がる世界
「かな」によって読み手の想像が広がる
動詞の省略による効果⇒スピード感
○景及び感情の省略
情景の省略によりその場の雰囲気が強調
感情の省略により寂しさが強調される
★俳句を楽しむ12 山田弘子
【写生ということ①】無になる
○写生の大切さ
写生を最初に身につけおくかどうかは俳句の将来に大きくかかわる⇒正岡子規方法論
客観写生⇒高浜虚子:主観感情を直接詠むのではなくそれらを呼び起こした要因を客観的に詠む
○どうしたら写生が出来るか
戸外を歩くときは筆記用具・句帖携帯-目に映るものを書き留める(写生)
まず自分を無にすることそうすると対象が自分の方に近づいてくる
★写生とは対象を言葉で表現する作業
客観写生の不朽の名作⇒ことば力
※見た儘を写生して俳句を作ることの繰り返しの中にその人の主観が滲み出てくるようになる
★俳句を楽しむ13 山田弘子
【写生ということ②】見るから観るへ
○写生と主観
高浜虚子:客観写生に務めているとその客観描写を通し主観が浸透して出てくる作者の主観は隠そうとしても隠すことが出来ないのであって客観描写の技倆が進むにつれて主観が頭を擡げてくる
-俳句への道
表面的にものを見るのではなく一歩進んでものをより深く観る
※素十の目は接眼レンズのように対象物をクローズアップさせたり深く内面的なものに迫ったりする⇒個性的且つ主観的句になっている
○急がば回れ
先ず面倒でもものをしっかり観る客観写生の習練を繰り返す
(京都錦市場吟行12月)