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松下幸之助のことば

松下幸之助一日一話

仕事の知恵・人生の知恵

1999年4月15日初版発行PHP文庫

松下幸之助翁に関しては、改めて紹介する迄も無く、よくご存じのことと思います。よって経歴等は省いて幸之助氏の「一日一話」から言葉をセレクトして紹介いたします。その言葉は平易な言葉を選んで語られていますが、内容は奥深く、仕事・経営・生き方等々、人生の指標になる言葉ばかりです。尚、個人的に好きな言葉を勝手に選ばせていただいてますので、ご興味ある方は、読みづらい内容とかまた、高価な本とか云う事は有りませんので、原本を読まれることをお勧めいたします。

  • 「受け身の人生から自発的積極的な人生への転換です。ダラダラと続いていると思うのは其の連なりの中の節を見過ごしているからで、だから心も改まらなければ姿勢も改まらない。大事なことは此の節を見分け自覚しその節々で思いを新たにすることである」―「運を開く言葉」より

【十一月の言葉】

*一日 人の世は雲の流れの如し

青い空にゆったりと白い雲が流れていく。常日頃慌ただしさの儘に意識もしなかった雲の流れである。速く遅く大きく小さく白く淡く高く低く一時も同じ姿を保っていない。。崩れるが如く崩れざるが如く一瞬一瞬その形を変えて青い空の中程を様々に流れていく。之は将に人の心人の定め運命に似ている。人の心は日に日に変わっていく。そして人の境遇も復昨日と今日は同じではないのである。喜びも佳悲しみも又吉し人の世は雲の流れの如し。そう思い定めれば其処に復人生の妙味も味わえるのではないだろうか。

*三日 日本人としての自覚と誇り

国破れて山河在りと云う言葉が有ります。例え国が滅んでも自然の山河は変わらないと云う意味ですが、山河は亦我々の心の故郷と共言えましょう。歴史に幾変転はあっても人の故郷を想う心には変わりはありません。此の国の祖先が培ってきた伝統の精神、国民精神も又変わることなくお互い人間の基本的な心構えであると思います。我々は日本と云う尊い故郷を持っています。此れを自覚し誇りとして活動する其処にはじめてお互いに納得の行く動きが起こるのではないでしょうか。日本人としての自覚や誇りの無い処には日本の政治も経済もないと思うのです。

*五日 大器晩成と云う事

能く世間ではあの人は大器晩成型だ等と云いますが、その場合どちらかと云えばあまり褒めた様には使わない事が多いようです。詰り今はまあまあだけれどもその内に何とか一人前になるだろうと云った調子です。併し私は此の大器晩成と云うのはもっと大事な意味を持っているのではないかと思うのです。真の大器晩成と云うものは人生は終生勉強であると云う考えを持って、菟と亀の昔話の様に一歩一歩急がず慌てず日々精進し進歩向上して行く姿ではないかと思います。其う云う姿を目指す事がお互いに大切だと思うのです。

*六日 部下の為に死ぬ

経営者に求められるものは色々ありましょうが、自分は部下の為に死ぬ覚悟があるか如何かが一番の問題だと思います。そう云う覚悟が出来ていない大将であれば部下も心から敬服して本当にその人の為に働こうと云う事にはならないでしょう。経営者の方もそう云うものを持たないと妙に遠慮したり怖れたりして社員を叱る事も出来なくなります。其れでは社内に混乱が起こる事にも成ってしまいます。

ですから矢張り経営者たる者はいざと云う時には部下の為に死ぬと云う程の思いで日々経営に当たるのでなければ力強い発展は期し得ないと思うのです。

*八日 振子の如く

時計の振子は右に振れ左に振れる。そして休みなく時間が刻まれる。其れが原則であり時計が生きている証拠であると云って好い。世の中も亦人生も斯くの如し。右に揺れ左に揺れる。揺れてこそ世の中は生きているのである。然し此処で大事な事は右に揺れ左に揺れると云っても、その揺れ方が中庸を得なければならぬと云う事である。右に揺れ左に揺れるその振幅が適切適正であってこそ其処から繁栄が生み出されてくる。小さく振れてもいけないし大きく振れてもいけない。中庸を得た適切な触れ方揺れ方が大事なのである。

*九日 利害得失に捉われない

利害得失を考える事はある程度止むを得ないけれども、余り其れに囚われ過ぎと自分の歩む道を誤る事にも成りかねない。学校を撰ぶにしても卒業して仕事を選ぶ場合でもそうである。誰もが給与とか待遇の事を先に考える傾向があるが、矢張り自分には何が一番適しているだろうかと云う事を能く考えるべきだと思う。

必ずしも大会社へ入ったから幸せかと云うとそうとばかりは言えない。人によっては中小企業へ勤めて却って用いられ人生の味と云うか綾を知る尊い体験が出来て、人間としても成長すると云う事が往々にしてあるからである。

*十四日 自分を戒める為に

松下電器では昭和八年に遵奉すべき五大精神を定め発表して以来毎日の朝会で唱和している。(十二年に二精神を加え七精神)是は勿論社員としての心構えを説いたものであるが、それと同時に私自身を鞭撻する爲のものである。皆で確認し合った使命であっても何もなければ遂遂忘れて行勝ちになる。だから毎日の仕事のスタート時に噛締める。言ってみれば自分への戒めである。人間は頼りないものである。如何に強い決意をしても時間が経てばやがてそれが弱まってくる。だからそれを防ぐ為には常に自分自身に言い聞かせる。自分に対する説得誡めを続けなければならない。

*十六日 成功するまで続ける

何事に拠らず志を建て始めたら少々上手くいかないとか失敗したと云う様な事で、簡単に諦めてしまってはいけないと思う。一度や二度の失敗で挫けたり諦める様な心弱い事では本当に物事を為し遂げて往く事は出来ない。世の中は常に変化し流動しているものである。一度は失敗し志を得なくても其れにめげず辛抱強く地道な努力を重ねて行く内に周囲の情勢が有利に転換して新たな道が開けてくると云う事もあろう。世に云う失敗の多くは成功する迄に諦めてしまう処に原因が有る様に思われる。竿後の最後迄諦めてはいけないのである。

*十八日 民主主義と勝手主義

民主主義と云うものは自分が善ければ人はどうでもいいと云うような勝手なものでは決してないと思うのです。今日の日本の民主主義は我儘勝手主義である。勝手主義を民主主義の如く解釈している人が随分あるのではないかと云う様な感じがします。民主主義と云うものは自分の権利も主張する事は認められるが、それと同時に他人の権利也福祉也と云うものを認めて往かなければならない。そういう事をしなかったならば法律によってぴしっと遣られると云う様な非常に戒律の厳しいものだと思います。其れがあって初めて民主主義と云うものが保ち得るのだと思うのです。

*二十日 寛容の心で包含

世の中には好い人ばかりではない。相当良い人もいるが相当悪い人もいる訳です。ですからきれいな人、心の清らかな人そう言う人ばかりを世の中に望んでも実際には中々その通りにはなりません。十人居たら其の中に必ず尾ならざる者正ならざる者も入ってくる。そういう状態で活動を進めているのがこの広い世の中の姿ではないでしょうか。其処に寛容と云う事が必要になってきます。力弱き者力強き者があるならば両者が互いに包含し合って其処に総合した共同の力が生み出されてゆく。そう云う処に我々人間の生き方があるのではないかと私は思うのです。

*二一日 心を解き放つ

自由な発想の転換が出来ると云う事は指導者にとって極めて大事な事である。然し発想の転換と云う事は盛んに言われるが実際は中々難しい。自ら自分の心を縛ったり狭めている場合が多いのである。だから大事な事は自分の心を解き放ち拡げて行く事である。そして例えば今迄表から見ていたものを裏から見、又裏を見ていたものを表も見てみる。そう云った事をあらゆる機会に繰り返していく事であろう。そうした心の訓練によって随所に発想の転換が出来る様にしたいものである。

*二二日 弁解より反省

仕事でも何でも物事が上手くいかない場合必ず其処に原因がある筈である。だから上手くいかなかった時にその原因を考える事は同じ失敗を重ねない為にも極めて大切である。そのことは誰もが承知しているのであるが、人間と云うものは往々にして上手くいかない原因を究明し反省するよりも、斯う云う状況だから上手くいかなかったのだ。あんな思いがけない事が起こって其れで失敗したのだと云う様に弁解し自分を納得させてしまう。原因は自分が招いた事であると云う思いに徹してこそ、失敗も経験も生かされてくるのではないだろうか。

*二五日 人間としての務め

命を懸けるー其れは偉大な事です。命を懸ける思いがあるならばものに取り組む態度と云うものが自ずと真剣に成る。従ってものの考え方が一新し創意工夫と云う事も次々に生まれてきます。お互いの命が生きて働くからです。そうすると其処から私たち人間が繁栄していく方法と云うものが無限に湧き出てくると云えるのではないでしょうか。この無限に潜んでいるものを一つ一つ探し求めていくのが人間の姿であり、私達お互いの人間としての務めであると思います。もうこれで云い決してそう考えてはならない。其れは人間としての務めを怠る人だと私は思います。

*二七日 人間としての成功

人には各各皆異なった天分特質と云うものが与えられています。言い換えれば万人万様皆異なった生き方をし、皆異なった仕事をする様に運命づけられているとも考えられると思うのです。私は成功と云うのは此の自分に与えられた天分を其の儘完全に生かし切る事ではないかと思います。それが人間として正しい生き方であり自分も満足すると同時に、働きの成果も高まって周囲の人々をも喜ばすことに為るのではないでしょうか。そういう意味からすればこれこそ人間としての成功と呼ぶべきではないかと考えるのです。

*三十日 精神大国を目指して

今日我が国は経済大国と云われる迄に成りましたが、人々の心の面精神面を高めると云う事に就いては、兎角等閑にされ勝ちだった様に思います。此れからは経済面の充実と合わせてお互い国民の道義道徳心良識を高め、明るく生き生きと日々の仕事に励みつつ自他共に活かし合う共同生活を造り上げていく。合わせて日本だけでなく海外の人々牽いては人類相互の為の、奉仕貢献が出来る豊かな精神に根差した国家国民の姿を築き上げていく。その様な精神大国道徳大国とでも呼べる方向を目指して進む事が、今日国内的にも海外的にも極めて寛容ではないかと思うのです。

一日一話 松下幸之助

五月の言葉

ほととぎす啼きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる 後徳大寺左大臣

三日 法律は国民自身の為に

民主主義の政治の元に於ける法律は国民お互いの暮らしを守り、夫々の活動の成果を得易くし一人一人の幸せを生み高めていく処に究極の目的なり存在意義があるのだと思います。言ってみれば国民が国民自身の幸せを実現して行く為に自ら法律を制定すると云う仕組みになって要る訳です。従って国民お互いがこういう法律を軽視し無視するような姿が仮にあるとするならば、それは云わば自分自身を軽んじ自分の尊厳を失う事にも通じると思います。其事をお互い国民は正しく認識し合い法律を常に正しく守りあってゆく事が肝要だと思います。

  • 今日は憲法記念日 
  • memo―法治国家の在り方尊厳―とは

七日 自らを教育する

人間の教育には勿論立派な校舎も必要で有環境も必要でしょうが其れ已に頼っていてはならないと思うのです。行政の充実により成程環境は段々良くなってくるでしょう。併しそういう環境が作られたとしましてもその中で其々の人が自らを処して自らを教育してゆく。自問自答しつつより高きものに為って往く事を怠っては決して立派な人間は生まれてこないと思うのです。今日より明日、明日より明後日と自らを高めてゆく処に人間の成長があり復其処から立派な人間が生まれてくるのではないでしょうか。

  • 2012年(H24)茨木筑波竜巻発生
  • Memo―自己成長

十日 熱意あれば

人の上に立つ指導者管理者としての要諦というものは色々考えられるけれども、その中でも最も大事なものの一つは熱意ではないかと思う。非常に知恵才覚に於いて人に優れた首脳者であってもこの会社を経営しようという事に熱意が無ければその下にいる人も。この人の下では大いに働こうという気分に成り難いのではないだろうか。そうなっては折角の知恵才覚も無きに等しいものに為ってしまう。自らは他に何も持っていなくても熱意さえ保持していれば知恵ある人は知恵を力ある人は力を才覚ある人は才覚をだしてそれぞれに協力してくれるだろう。

  • 今日は愛鳥の日
  • Memo-事の為る根底➡指導者の熱意

十五日 業界の信用を高める

どんな商売もそうでしょうが自分ぽ店が発展繁栄していくには、そのお店の属している業界全体が常に健全で世間の人々から信用されていることが非常に大事だと思います。もしそうではなく業界の中に不健全な店が多ければあの業界はダメだ信用できないと云うことに為って、その業界に属する個々の店も同じ様な評価を世間から受け商売は成り立っていきにくくなるでしょう。ですからお互い商売を進めていく上で自分の店の繁栄を図る事は元より大事ですがそれと同時に他の店とも上手く協調して業界全体の共通の信用を高める事を配慮する事が究めて大事だと思うのです。

  • 1932年(S7)5.15事件
  • 1972年(S47)沖縄返還
  • Memo-業界の健全化➡ネットワークビジネス

十六日 人間観を持つ

人間の幸せを高めていく為には先ず人間が人間を知る事が大切だと思う。言い換えれば人間とはどういうものでありどう云う歩み方をすべきであるかと云う正しい人間観を持つという事である。そうした人間に対する正しい認識を欠いたならば如何に努力を重ねても其れは往々にして実りの無いものに為ってしまい時には却って人間自身を苦しめる事にもなりかねない。そういう意味に於いてが先ず正しい人間観社会観と云ったものを生み出し、それに基づく指導理念を打ち立てていくならばそれは極めて力強いものに為ってくると思うのである。

  • 1968(S43)十勝沖地震M7.8
  • 今日は旅の日
  • Memo―認識・観察眼

二十日 公平な態度

国に於ける法律の適用には万が一にも不公平があってはならないが、会社や団体に於ける規律や規則についても是と復同じ事が言える。会社の規則と云うものは一新入社員であろうと社長であろうと等しく此れを守り其れに反した時には等しく罰せらるという事で初めて社内の秩序も保たれ士気も上がるのである。だから指導者は常に公平という事を考えなくてはならない。利害とか得失、相手の地位強弱に拘りなく何が正しいかと云う所から公平に賞すべきものは賞し罰すべきものは罰すると云う姿勢を遵守しなければならない。

  • 今日は世界計量記念日
  • Memo-指導者の基本姿勢➡現代の政治企業トップの在り方には疑問あり

二二日 感心する

同じ様に人の話を聞いても中々良い事を言うなぁと感心する人もあればなんだ詰らないと思う人もいる。どちらが好ましいかと云うと勿論話の内容にも依るだろうがいいなぁと感じる人の方に、より多くその話の内容から仕事に役立つような何かヒントを得て、新しい発想をすると云ったプラスの価値が生まれてくるだろう。一寸した事だけれども人生とか事業の成否のカギは案外こうした処に在るのではないかと思う。人の意見を聞いて其れに流されてはいけませんが、お互い先ず誰の意見にも感心し学び合うという柔軟な心を養い高めていきたいものである。

  • 今日はガールスカウトの日
  • 2009年(H21)ネットワーク事業セーラ登録

二八日 失敗を素直に認める

例えどんな偉大な仕事に成功したと云う人でも何の失敗もしたことがないと云う人はいないと思います。事に当って色々失敗してその都度其処に何かを発見しそう言うことを幾度となく体験しつつ段々成長していき遂には立派な信念を自分の心に植えつけ偉大な業績を為し遂げるに至ったのではないでしょうか。大切な事は何等かの失敗があって困難な事態に陥った時に其れを素直に自分の失敗と認めていくという事です。失敗の原因を素直に認識し是は非常に好い体験だった尊い教訓になったと云う処迄心を開く人は後日進歩し成長する人だと思います。

  • 今日はゴルフ記念日
  • Memo―体験の認識➡プラス思考・志向

なんでも、人の話を否定的にとる人がいる。本人は意識していないのだろうが、これは、本人にとっても大きな損失になっているということに、早く気付いてほしいものである。松下幸之助翁は22日の章で、此の事を非常に大切な事と教えている。